ものづくり基盤技術振興基本法
ものづくり基盤技術は、我が国の基幹的な産業である製造業の発展を支えることにより、生産の拡大、貿易の振興、新産業の創出、雇用の増大等国民経済のあらゆる領域にわたりその発展に寄与するとともに、国民生活の向上に貢献してきた。また、ものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者は、このようなものづくり基盤技術の担い手として、その水準の維持及び向上のために重要な役割を果たしてきた。
我らは、このようなものづくり基盤技術及びこれに係る業務に従事する労働者の果たす経済的社会的役割が、国の存立基盤を形成する重要な要素として、今後においても変わることのないことを確信する。
しかるに、近時、就業構造の変化、海外の地域における工業化の進展等による競争条件の変化その他の経済の多様かつ構造的な変化による影響を受け、国内総生産に占める製造業の割合が低下し、その衰退が懸念されるとともに、ものづくり基盤技術の継承が困難になりつつある。
このような事態に対処して、我が国の国民経済が国の基幹的な産業である製造業の発展を通じて今後とも健全に発展していくためには、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、ものづくり基盤技術の積極的な振興を図ることが不可欠である。
ここに、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進するため、この法律を制定する。
第1章 総則
第1条 この法律は、ものづくり基盤技術が国民経済において果たすべき重要な役割にかんがみ、近年における経済の多様かつ構造的な変化に適切に対処するため、ものづくり基盤技術の振興に関する施策の基本となる事項を定め、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を総合的かつ計画的に推進することにより、ものづくり基盤技術の水準の維持及び向上を図り、もって国民経済の健全な発展に資することを目的とする。
第2条 この法律において「ものづくり基盤技術」とは、工業製品の設計、製造又は修理に係る技術のうち汎用性を有し、製造業の発展を支えるものとして政令で定めるものをいう。
2 この法律において「ものづくり基盤産業」とは、ものづくり基盤技術を主として利用して行う事業が属する業種であって、製造業又は機械修理業、ソフトウェア業、デザイン業、機械設計業その他の工業製品の設計、製造若しくは修理と密接に関連する事業活動を行う業種(次条第1項において「製造業等」という。)に属するものとして政令で定めるものをいい、「ものづくり事業者」とは、ものづくり基盤産業に属する事業を行う者をいう。
3 この法律において「ものづくり労働者」とは、ものづくり事業者に雇用される労働者のうちものづくり基盤技術に係る業務に従事する労働者をいう。
第3条 ものづくり基盤技術の振興は、ものづくり基盤技術が製造業等に属する事業において供給される製品又は役務の価値を高める重要な要素であり、そのものづくり基盤技術はものづくり労働者によって担われていることにかんがみ、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運を醸成しつつ、積極的に行われなければならない。
2 ものづくり基盤技術の振興に当たっては、ものづくり基盤技術の中心的な担い手であるものづくり基盤技術に係る業務に必要な技能及びこれに関する知識について習熟したものづくり労働者(第13条において「熟練ものづくり労働者」という。)が不足していることにかんがみ、ものづくり労働者の確保及び資質の向上が図られなければならない。
3 ものづくり基盤技術の振興に当たっては、ものづくり事業者の大部分が中小企業者によって占められていることにかんがみ、中小企業者であるものづくり事業者(第15条において「中小事業者」という。)の経営基盤の強化及び取引条件に関する不利の補正が図られなければならない。
4 ものづくり基盤技術の振興に関する施策は、ものづくり事業者、ものづくり労働者又はこれらに関する団体がする自主的な努力を助長することを旨として講じられるものとする。
第4条 国は、ものづくり基盤技術の振興に関する総合的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。
第5条 地方公共団体は、ものづくり基盤技術の振興に関し、国の施策に準じた施策及びその地方公共団体の区域の特性を生かした自主的な施策を策定し、及びこれを実施する責務を有する。
第6条 ものづくり事業者は、その事業を行うに当たっては、ものづくり基盤技術に関する自主的な研究開発の実施によるほか、ものづくり基盤技術に関する能力の適正な評価、職場環境の整備改善その他ものづくり労働者の労働条件の改善を通じて、ものづくり基盤技術の水準の維持及び向上に努めなければならない。
第7条 政府は、ものづくり基盤技術の振興に関する施策を実施するため必要な法制上、財政上又は金融上の措置その他の措置を講じなければならない。
第8条 政府は、毎年、国会に、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策に関する報告書を提出しなければならない。
第2章 ものづくり基盤技術基本計画
第9条 政府は、ものづくり基盤技術の振興に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、ものづくり基盤技術の振興に関する基本的な計画(以下この条において「ものづくり基盤技術基本計画」という。)を策定しなければならない。
2 ものづくり基盤技術基本計画は、次の事項について定める。
一 ものづくり基盤技術の振興に関する基本的な方針
二 ものづくり基盤技術の研究開発に関する事項
三 ものづくり労働者の確保等に関する事項
四 ものづくり基盤産業の育成に関する事項
五 ものづくり基盤技術に係る学習の振興に関する事項
六 その他ものづくり基盤技術の振興に関し必要な事項
3 政府は、ものづくり基盤技術基本計画を策定したときは、遅滞なく、これを国会に報告するとともに、その概要を公表しなければならない。
4 政府は、ものづくり基盤技術をめぐる経済的社会的状況、政府がものづくり基盤技術の振興に関して講じた施策の効果等を勘案して、適宜、ものづくり基盤技術基本計画に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更しなければならない。
5 第3項の規定は、ものづくり基盤技術基本計画の変更について準用する。
第3章 基本的施策
第10条 国は、ものづくり基盤技術の水準の向上を図るため、ものづくり基盤技術に関する研究開発の実施及びその成果の普及、技術の指導、技術者の研修、特許権その他の工業所有権に関する指導及び情報の提供等必要な施策を講ずるものとする。
第11条 国は、ものづくり基盤技術に関する研究開発及びその成果の利用の促進並びに研究開発に係る人材の育成に資するため、ものづくり事業者と大学、高等専門学校及び大学共同利用機関(以下この条において「大学等」という。)との有機的な連携が図られるよう必要な施策を講ずるものとする。この場合において、大学等における学術研究の特性に常に配慮しなければならない。
第12条 国は、ものづくり労働者の確保及び資質の向上を促進するため、ものづくり労働者について、次の事項に関し、必要な施策を講ずるものとする。
一 失業の予防その他雇用の安定を図ること。
二 職業訓練及び職業能力検定の充実等により職業能力の開発及び向上を図ること。
三 ものづくり基盤技術に関する能力の適正な評価、職場環境の整備改善その他福祉の増進を図ること。
第13条 国は、熟練ものづくり労働者(熟練ものづくり労働者であった者を含む。以下この条において同じ。)の有する技能及び知識の有効な活用並びにものづくり基盤技術の継承を図るため、熟練ものづくり労働者に対する技術指導業務の委嘱等必要な施策を講ずるものとする。
第14条 国は、ものづくり基盤産業における事業活動の効率化、高度化等を図るため、自然的経済的社会的条件からみて一体である地域における工業団地等の施設の整備、ものづくり事業者の交流又は連携の推進等ものづくり事業者の新たな集積の促進又は既存の集積の有する機能の強化に必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、ものづくり基盤産業における新規創業等の円滑化を図るため、ものづくり事業者に対する施設、人材、情報等の提供、資金の円滑な供給等新規創業等に係る支援機能の充実に必要な施策を講ずるものとする。
第15条 国は、中小事業者の経営基盤の強化を図るため、新たな設備の設置その他資本装備の高度化、生産管理の合理化等に関し必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、中小事業者の取引条件に関する不利を補正するため、その下請取引の適正化に関し必要な施策を講ずるものとする。
第16条 国は、青少年をはじめ広く国民があらゆる機会を通じてものづくり基盤技術に対する関心と理解を深めるとともに、ものづくり基盤技術に関する能力を尊重する社会的気運が醸成されるよう、小学校、中学校等における技術に関する教育の充実をはじめとする学校教育及び社会教育におけるものづくり基盤技術に関する学習の振興、ものづくり基盤技術の重要性についての啓発並びにものづくり基盤技術に関する知識の普及に必要な施策を講ずるものとする。
第17条 国は、我が国の国際社会における役割を積極的に果たすため、ものづくり基盤技術に関し、開発途上地域に対する技術協力等国際的な技術協力の推進に必要な施策を講ずるものとする。
第18条 国は、ものづくり基盤技術の振興に関する施策の適正な策定及び実施に資するため、ものづくり基盤技術の関係者等の意見を国の施策に反映させるための制度を整備する等必要な施策を講ずるものとする。
この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。