日本語教育の推進に関する法律
第1章 総則
第1条 この法律は、日本語教育の推進が、我が国に居住する外国人が日常生活及び社会生活を国民と共に円滑に営むことができる環境の整備に資するとともに、我が国に対する諸外国の理解と関心を深める上で重要であることに鑑み、日本語教育の推進に関し、基本理念を定め、並びに国、地方公共団体及び事業主の責務を明らかにするとともに、基本方針の策定その他日本語教育の推進に関する施策の基本となる事項を定めることにより、日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進し、もって多様な文化を尊重した活力ある共生社会の実現に資するとともに、諸外国との交流の促進並びに友好関係の維持及び発展に寄与することを目的とする。
第2条 この法律において「外国人等」とは、日本語に通じない外国人及び日本の国籍を有する者をいう。
2 この法律において「日本語教育」とは、外国人等が日本語を習得するために行われる教育その他の活動(外国人等に対して行われる日本語の普及を図るための活動を含む。)をいう。
第3条 日本語教育の推進は、日本語教育を受けることを希望する外国人等に対し、その希望、置かれている状況及び能力に応じた日本語教育を受ける機会が最大限に確保されるよう行われなければならない。
2 日本語教育の推進は、日本語教育の水準の維持向上が図られるよう行われなければならない。
3 日本語教育の推進は、外国人等に係る教育及び労働、出入国管理その他の関連施策並びに外交政策との有機的な連携が図られ、総合的に行われなければならない。
4 日本語教育の推進は、国内における日本語教育が地域の活力の向上に寄与するものであるとの認識の下に行われなければならない。
5 日本語教育の推進は、海外における日本語教育を通じて我が国に対する諸外国の理解と関心を深め、諸外国との交流を促進するとともに、諸外国との友好関係の維持及び発展に寄与することとなるよう行われなければならない。
6 日本語教育の推進は、日本語を学習する意義についての外国人等の理解と関心が深められるように配慮して行われなければならない。
7 日本語教育の推進は、我が国に居住する幼児期及び学齢期(満6歳に達した日の翌日以後における最初の学年の初めから満15歳に達した日の属する学年の終わりまでの期間をいう。)にある外国人等の家庭における教育等において使用される言語の重要性に配慮して行われなければならない。
第4条 国は、前条の基本理念(以下単に「基本理念」という。)にのっとり、日本語教育の推進に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
第5条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、日本語教育の推進に関し、国との適切な役割分担を踏まえて、その地方公共団体の地域の状況に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第6条 外国人等を雇用する事業主は、基本理念にのっとり、国又は地方公共団体が実施する日本語教育の推進に関する施策に協力するとともに、その雇用する外国人等及びその家族に対する日本語学習(日本語を習得するための学習をいう。以下同じ。)の機会の提供その他の日本語学習に関する支援に努めるものとする。
第7条 国及び地方公共団体は、国内における日本語教育が適切に行われるよう、関係省庁相互間その他関係機関、日本語教育を行う機関(日本語教育を行う学校(学校教育法(昭和22年法律第26号)第1条に規定する学校、同法第124条に規定する専修学校及び同法第134条第1項に規定する各種学校をいう。)を含む。以下同じ。)、外国人等を雇用する事業主、外国人等の生活支援を行う団体等の関係者相互間の連携の強化その他必要な体制の整備に努めるものとする。
2 国は、海外における日本語教育が持続的かつ適切に行われるよう、独立行政法人国際交流基金、日本語教育を行う機関、諸外国の行政機関及び教育機関等との連携の強化その他必要な体制の整備に努めるものとする。
第8条 政府は、日本語教育の推進に関する施策を実施するため必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第9条 政府は、日本語教育の状況及び政府が日本語教育の推進に関して講じた施策に関する資料を作成し、適切な方法により随時公表しなければならない。
第2章 基本方針等
第10条 政府は、日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針(以下「基本方針」という。)を定めなければならない。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 日本語教育の推進の基本的な方向に関する事項
二 日本語教育の推進の内容に関する事項
三 その他日本語教育の推進に関する重要事項
3 文部科学大臣及び外務大臣は、基本方針の案を作成し、閣議の決定を求めなければならない。
4 文部科学大臣及び外務大臣は、基本方針の案を作成しようとするときは、あらかじめ、関係行政機関の長に協議しなければならない。
5 文部科学大臣及び外務大臣は、第3項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、基本方針を公表しなければならない。
6 政府は、日本語教育を取り巻く環境の変化を勘案し、並びに日本語教育に関する施策の実施の状況についての調査、分析及び評価を踏まえ、おおむね5年ごとに基本方針に検討を加え、必要があると認めるときは、これを変更するものとする。
7 第3項から第5項までの規定は、基本方針の変更について準用する。
第11条 地方公共団体は、基本方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体における日本語教育の推進に関する施策を総合的かつ効果的に推進するための基本的な方針を定めるよう努めるものとする。
第3章 基本的施策
第1節 国内における日本語教育の機会の拡充
第12条 国は、外国人等である幼児、児童、生徒等に対する生活に必要な日本語及び教科の指導等の充実その他の日本語教育の充実を図るため、これらの指導等の充実を可能とする教員等(教員及び学校において必要な支援を行う者をいう。以下この項において同じ。)の配置に係る制度の整備、教員等の養成及び研修の充実、就学の支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、外国人等である幼児、児童、生徒等が生活に必要な日本語を習得することの重要性についてのその保護者の理解と関心を深めるため、必要な啓発活動を行うよう努めるものとする。
第13条 国は、大学及び大学院に在学する外国人留学生等(出入国管理及び難民認定法(昭和26年政令第319号)別表第一の四の表の留学の在留資格をもって在留する者及び日本の国籍を有する者であって我が国に留学しているものをいう。次項において同じ。)であって日本語を理解し、使用する能力(以下「日本語能力」という。)を必要とする職業に就くこと、我が国において教育研究を行うこと等を希望するものに対して就業、教育研究等に必要な日本語を習得させるための日本語教育の充実を図るために必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、外国人留学生等(大学及び大学院に在学する者を除く。)であって日本語能力を必要とする職業に就くこと又は我が国において進学することを希望するものに対して就業又は進学に必要な日本語を習得させるための日本語教育の充実を図るために必要な施策を講ずるものとする。
第14条 国は、事業主がその雇用する外国人等(次項に規定する技能実習生を除く。)に対して、日本語学習の機会を提供するとともに、研修等により専門分野に関する日本語教育の充実を図ることができるよう、必要な支援を行うものとする。
2 国は、事業主等が技能実習生(出入国管理及び難民認定法別表第一の二の表の技能実習の在留資格をもって在留する者をいう。)に対して日本語能力の更なる向上の機会を提供することができるよう、教材の開発その他の日本語学習に関する必要な支援を行うものとする。
3 国は、定住者等(出入国管理及び難民認定法別表第二の上欄に掲げる在留資格をもって在留する者をいう。)が就労に必要な水準の日本語を習得することができるよう、必要な施策を講ずるものとする。
第15条 国は、出入国管理及び難民認定法第61条の2第1項に規定する難民の認定を受けている外国人及びその家族並びに外国において一時的に庇護されていた外国人であって政府の方針により国際的動向を踏まえ我が国に受け入れたものが国内における定住のために必要とされる基礎的な日本語を習得することができるよう、学習の機会の提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
第16条 国は、地域における日本語教育の機会の拡充を図るため、日本語教室(専ら住民である外国人等に対して日本語教育を実施する事業をいう。以下この条において同じ。)の開始及び運営の支援、日本語教室における日本語教育に従事する者の養成及び使用される教材の開発等の支援、日本語教室を利用することが困難な者の日本語学習に係る環境の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
第17条 国は、国内における日本語教育が外国人等の日本語能力を向上させるとともに、共生社会の実現に資することを踏まえ、外国人等に対する日本語教育についての国民の理解と関心を深めるよう、日本語教育に関する広報活動の充実その他の必要な施策を講ずるものとする。
第2節 海外における日本語教育の機会の拡充
第18条 国は、海外における日本語教育が外国人等の我が国に対する理解と関心の増進、我が国の企業への就職の円滑化等に寄与するものであることに鑑み、各国における日本語教育の状況に応じて、持続的かつ適切に日本語教育が行われるよう、現地における日本語教育に関する体制及び基盤の整備の支援、海外における日本語教育に従事する者の養成並びに使用される教材(インターネットを通じて提供することができるものを含む。)の開発及び提供並びにその支援、海外において日本語教育を行う教育機関の活動及び日本語を学習する者の支援その他の必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
2 国は、外国人等であって我が国への留学を希望するものが我が国の大学等で教育を受けるために必要な水準の日本語を習得することができるよう、必要な施策を講ずるものとする。
第19条 国は、海外に在留する邦人の子、海外に移住した邦人の子孫等に対する日本語教育の充実を図るため、これらの者に対する日本語教育を支援する体制の整備その他の必要な施策を講ずるものとする。
第3節 日本語教育の水準の維持向上等
第20条 国は、日本語教育を行う機関における日本語教育の水準の維持向上を図るため、日本語教育を行う機関によるその日本語教育に従事する者に対する研修の機会の確保の促進その他の必要な施策を講ずるものとする。
第21条 国は、日本語教育に従事する者の能力及び資質の向上並びに処遇の改善が図られるよう、日本語教育に従事する者の養成及び研修体制の整備、国内における日本語教師(日本語教育に関する専門的な知識及び技能を必要とする業務に従事する者をいう。以下この条において同じ。)の資格に関する仕組みの整備、日本語教師の養成に必要な高度かつ専門的な知識及び技能を有する者の養成その他の必要な施策を講ずるものとする。
2 国は、海外における日本語教育の水準の維持向上を図るため、外国人である日本語教師の海外における養成を支援するために必要な施策を講ずるよう努めるものとする。
第22条 国は、日本語教育を受ける者の日本語能力に応じた効果的かつ適切な教育が行われるよう、教育課程の編成に係る指針の策定、指導方法及び教材の開発及び普及並びにその支援その他の必要な施策を講ずるものとする。
第23条 国は、日本語教育を受ける者の日本語能力を適切に評価することができるよう、日本語能力の評価方法の開発その他の必要な施策を講ずるものとする。
第4節 日本語教育に関する調査研究等
第24条 国は、日本語教育の推進に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、日本語教育の実態(海外におけるものを含む。)、効果的な日本語教育の方法、試験その他の日本語能力の適切な評価方法等について、調査研究、情報の収集及び提供その他の必要な施策を講ずるものとする。
第25条 国は、外国人等が日本語教育に関して必要な情報を得られるよう、外国人等のために日本語教育に関する情報を集約し、当該集約した情報についてインターネットを通じて閲覧することを可能とするための措置、相談体制の整備に関する助言その他の必要な施策を講ずるものとする。
第5節 地方公共団体の施策
第26条 地方公共団体は、この章(第2節を除く。)に定める国の施策を勘案し、その地方公共団体の地域の状況に応じた日本語教育の推進のために必要な施策を実施するよう努めるものとする。
第4章 日本語教育推進会議等
第27条 政府は、文部科学省、外務省その他の関係行政機関(次項において「関係行政機関」という。)相互の調整を行うことにより、日本語教育の総合的、一体的かつ効果的な推進を図るため、日本語教育推進会議を設けるものとする。
2 関係行政機関は、日本語教育に関し専門的知識を有する者、日本語教育に従事する者及び日本語教育を受ける立場にある者によって構成する日本語教育推進関係者会議を設け、前項の調整を行うに際しては、その意見を聴くものとする。
第28条 地方公共団体に、第11条に規定する基本的な方針その他の日本語教育の推進に関する重要事項を調査審議させるため、条例で定めるところにより、審議会その他の合議制の機関を置くことができる。
第1条 この法律は、公布の日から施行する。
第2条 国は、次に掲げる事項その他日本語教育を行う機関であって日本語教育の水準の維持向上を図るために必要な適格性を有するもの(以下この条において「日本語教育機関」という。)に関する制度の整備について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。
一 日本語教育を行う機関のうち当該制度の対象となる機関の類型及びその範囲
二 外国人留学生の在留資格に基づく活動状況の把握に対する協力に係る日本語教育機関の責務の在り方
三 日本語教育機関における日本語教育の水準の維持向上のための評価制度等の在り方
四 日本語教育機関における日本語教育に対する支援の適否及びその在り方