農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律
第1条 この法律は、農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るため、その基本理念、農林水産大臣が策定する基本指針等について定めるとともに、多面的機能発揮促進事業について、その事業計画の認定の制度を設けるとともに、これを推進するための措置等について定め、もって国民生活及び国民経済の安定に寄与することを目的とする。
第2条 農業の有する多面的機能は、その発揮により国民に多くの恵沢をもたらすものであり、食料その他の農産物の供給の機能と一体のものとして生ずる極めて重要な機能であることを踏まえ、その適切かつ十分な発揮により、将来にわたって国民がその恵沢を享受することができるよう、農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るための取組に対して、国、都道府県及び市町村が相互に連携を図りながら集中的かつ効果的に支援を行うことを旨として、その発揮の促進が図られなければならない。
2 農業の有する多面的機能の発揮の促進に当たっては、その発揮に不可欠であり、かつ、地域における貴重な資源である農用地の保全に資する各種の取組が、長年にわたって農業者その他の地域住民による共同活動により営まれ、良好な地域社会の維持及び形成に重要な役割を果たしてきているとともに、農用地の効率的な利用の促進にも資するものであることに鑑み、当該共同活動の実施による各種の取組の推進が図られなければならない。
第3条 この法律において「農業の有する多面的機能」とは、国土の保全、水源の涵養、自然環境の保全、良好な景観の形成、文化の伝承等農村で農業生産活動が行われることにより生ずる食料その他の農産物の供給の機能以外の多面にわたる機能をいう。
2 この法律において「農用地」とは、耕作の目的又は主として耕作若しくは養畜の事業のための採草若しくは家畜の放牧の目的に供される土地をいう。
3 この法律において「多面的機能発揮促進事業」とは、農業の有する多面的機能の発揮の促進を図るため、農業者の組織する団体その他の農林水産省令で定める者(以下「農業者団体等」という。)が実施する事業であって、次に掲げるものをいう。
一 農業用用排水施設、農業用道路その他農用地の保全又は利用上必要な施設(これらの施設と一体的に管理することが適当なものとして農林水産省令で定める土地を含む。以下同じ。)の管理に関する事業であって、次に掲げる活動のいずれかを行うもの
イ 当該施設の維持その他の主として当該施設の機能の保持を図る活動であって、農林水産省令で定めるもの
ロ 当該施設の改良その他の主として当該施設の機能の増進を図る活動であって、農林水産省令で定めるもの
二 中山間地域等(食料・農業・農村基本法(平成11年法律第106号)第35条第1項に規定する中山間地域等をいう。)における農業生産活動の継続的な実施を推進する事業
三 自然環境の保全に資する農業の生産方式として農林水産省令で定めるものを導入した農業生産活動の実施を推進する事業
四 その他農業の有する多面的機能の発揮の促進に資する事業として農林水産省令で定めるもの
第4条 農林水産大臣は、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する基本指針(以下「基本指針」という。)を定めるものとする。
2 基本指針においては、次に掲げる事項につき、次条第1項に規定する基本方針の指針となるべきものを定めるものとする。
一 農業の有する多面的機能の発揮の促進の意義及び目標に関する事項
二 多面的機能発揮促進事業の実施を推進すべき区域の設定に関する基本的な事項
三 多面的機能発揮促進事業に関する基本的な事項
四 前三号に掲げるもののほか、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する重要事項
3 農林水産大臣は、基本指針を定めようとするときは、環境大臣その他関係行政機関の長に協議しなければならない。
4 農林水産大臣は、基本指針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するとともに、環境大臣その他関係行政機関の長及び都道府県知事に通知しなければならない。
5 前二項の規定は、基本指針の変更について準用する。
第5条 都道府県知事は、基本指針に即して、当該都道府県の区域内について、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する基本方針(以下「基本方針」という。)を定めることができる。
2 基本方針においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 農業の有する多面的機能の発揮の促進の目標
二 多面的機能発揮促進事業の実施を推進すべき区域の基準
三 次条第1項に規定する促進計画の作成に関する事項
四 前三号に掲げるもののほか、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する事項
3 都道府県知事は、基本方針を定めようとするときは、農林水産大臣に協議しなければならない。
4 都道府県知事は、基本方針を定めたときは、遅滞なく、これを公表するとともに、関係市町村に通知し、かつ、農林水産大臣に報告しなければならない。
5 前二項の規定は、基本方針の変更について準用する。
第6条 市町村は、基本方針に即して、当該市町村の区域内について、農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する計画(以下「促進計画」という。)を作成することができる。
2 促進計画においては、次に掲げる事項を定めるものとする。
一 促進計画の区域
二 促進計画の目標
三 第1号の区域内においてその実施を推進する多面的機能発揮促進事業に関する事項
四 第1号の区域内において特に重点的に多面的機能発揮促進事業の実施を推進する区域を定める場合にあっては、その区域
五 前各号に掲げるもののほか、促進計画の実施に関し当該市町村が必要と認める事項
3 促進計画は、農業振興地域整備計画その他法律の規定による地域の農業の振興に関する計画との調和が保たれたものでなければならない。
4 市町村は、促進計画を作成しようとするときは、あらかじめ、都道府県知事に協議しなければならない。
5 市町村は、促進計画を作成したときは、遅滞なく、これを公表するとともに、都道府県知事に当該促進計画の写しを送付しなければならない。
6 前三項の規定は、促進計画の変更について準用する。
第7条 促進計画に基づいて当該促進計画に定められた前条第2項第1号の区域内において多面的機能発揮促進事業を実施しようとする農業者団体等は、その実施しようとする多面的機能発揮促進事業に関する計画(以下「事業計画」という。)を作成し、当該促進計画を作成した市町村(以下「特定市町村」という。)の認定を申請することができる。
2 事業計画においては、次に掲げる事項を記載しなければならない。
一 多面的機能発揮促進事業の目標
二 多面的機能発揮促進事業の内容に関する次に掲げる事項
イ 多面的機能発揮促進事業の種類及び実施区域
ロ 第3条第3項第1号に掲げる事業を実施しようとする場合にあっては、当該事業に係る施設の所在及び種類、当該施設の管理に関し行う同号イに掲げる活動又は同号ロに掲げる活動の別及び当該活動の内容その他農林水産省令で定める事項
ハ 第3条第3項第2号に掲げる事業を実施しようとする場合にあっては、当該事業に係る農業生産活動の内容、当該農業生産活動の継続的な実施を推進するための活動の内容その他農林水産省令で定める事項
ニ 第3条第3項第3号に掲げる事業を実施しようとする場合にあっては、当該事業に係る自然環境の保全に資する農業の生産方式の内容、当該生産方式を導入した農業生産活動の実施を推進するための活動の内容その他農林水産省令で定める事項
三 多面的機能発揮促進事業の実施期間
四 その他農林水産省令で定める事項
3 農業者団体等であって農林水産省令で定めるものは、土地改良法(昭和24年法律第195号)第85条第1項に規定する都道府県営土地改良事業によって生じた同法第2条第2項第1号に規定する土地改良施設(次項において「土地改良施設」という。)について第3条第3項第1号に掲げる事業(同号ロに掲げる活動を行うものに限る。)を実施しようとするときは、前項第2号ロに掲げる事項に、第12条第1項の規定による委託を受けて行う当該土地改良施設についての管理に関する事項を記載することができる。
4 前項に規定する農業者団体等は、同項の規定により事業計画に土地改良施設についての管理に関する事項を記載しようとするときは、当該事項について、あらかじめ、都道府県(土地改良法第94条の10第1項の規定により当該都道府県が当該土地改良施設を同法第94条の3第1項に規定する土地改良区等に管理させている場合にあっては、当該土地改良区等を含む。)の同意を得なければならない。
5 特定市町村は、第1項の認定の申請があった場合において、その事業計画が次の各号のいずれにも適合するものであると認めるときは、その認定をするものとする。
一 当該事業計画が促進計画に照らし適切なものであること。
二 当該事業計画に定める事項が当該事業計画に係る多面的機能発揮促進事業を確実に実施するために適切なものであること。
三 当該事業計画に記載された多面的機能発揮促進事業の実施区域(当該事業計画に二以上の多面的機能発揮促進事業が記載されている場合にあっては、その全ての実施区域)内に、現に耕作又は養畜の目的に供されておらず、かつ、引き続き耕作又は養畜の目的に供されないと見込まれる農用地として農林水産省令で定めるものがないこと。
6 特定市町村は、第1項の認定をしたときは、遅滞なく、当該認定に係る事業計画の概要(当該認定に係る事業計画に、前条第2項第4号の規定により定められた区域内において実施される多面的機能発揮促進事業が記載されている場合にあっては、その旨を含む。)を公表しなければならない。
第8条 前条第1項の認定を受けた農業者団体等(以下「認定農業者団体等」という。)は、当該認定に係る事業計画の変更をしようとするときは、特定市町村の認定を受けなければならない。ただし、その変更が農林水産省令で定める軽微な変更であるときは、この限りでない。
2 特定市町村は、認定農業者団体等が前条第1項の認定に係る事業計画(前項の変更の認定又は同項ただし書の農林水産省令で定める軽微な変更があったときは、その変更後のもの。以下この条において「認定事業計画」という。)に従って当該認定事業計画に記載された多面的機能発揮促進事業(以下「認定事業」という。)を実施していないと認めるときは、当該認定を取り消すことができる。
3 特定市町村は、認定事業計画が前条第5項各号のいずれかに適合しないものとなったと認めるときは、認定農業者団体等に対し、当該認定事業計画の変更を指示し、又は同条第1項の認定を取り消すことができる。
4 前条第4項から第6項までの規定は、認定事業計画の変更について準用する。この場合において、同条第5項及び第6項中「第1項」とあるのは、「次条第1項」と読み替えるものとする。
第9条 特定市町村は、認定農業者団体等に対し、認定事業(第3条第3項第4号に掲げる事業を除く。第11条において同じ。)の実施に要する費用の一部を補助することができる。
2 国は、都道府県が、前項の規定による補助をする特定市町村に対し当該補助に要する費用の一部を補助する場合には、当該都道府県に対し、予算の範囲内において、政令で定めるところにより、当該補助に要する費用の一部を補助することができる。
第10条 認定事業の実施区域内の一団の農用地の所有者は、特定市町村に対し、農林水産省令で定めるところにより、当該農用地につき地上権、永小作権、質権、賃借権、使用貸借による権利若しくはその他の使用及び収益を目的とする権利、先取特権又は抵当権を有する者の全員の同意を得て、当該農用地の区域を農業振興地域の整備に関する法律(昭和44年法律第58号)第8条第2項第1号に規定する農用地区域(以下「農用地区域」という。)として定めるべきことを要請することができる。
2 前項の要請に基づき、特定市町村が当該要請に係る農用地の区域の全部又は一部を農用地区域として定める場合には、農業振興地域の整備に関する法律第11条第3項から第11項まで(これらの規定を同法第13条第4項において準用する場合を含む。)の規定は、適用しない。
第11条 農業振興地域の整備に関する法律第13条第1項の規定による農業振興地域整備計画の変更のうち、農用地等(同法第3条に規定する農用地等をいう。)以外の用途に供することを目的として農用地区域内の土地を農用地区域から除外するために行う農用地区域の変更は、当該変更に係る土地が認定事業の実施区域(第6条第2項第4号の規定により定められた区域内のものに限る。)内にあるときは、同法第13条第2項の規定にかかわらず、同項各号に掲げる要件の全てを満たすほか、当該認定事業の実施期間が満了していることその他の農林水産省令で定める要件を満たす場合に限り、することができる。
第12条 都道府県は、認定事業を行う認定農業者団体等(第7条第4項(第8条第4項において準用する場合を含む。)の同意をした相手方であるものに限る。)に対し、当該同意に係る施設の管理の全部又は一部を委託することができる。
2 土地改良法第94条の6第2項の規定は、前項の規定による委託について準用する。この場合において、同条第2項中「国営土地改良事業」とあるのは「都道府県営土地改良事業」と、「土地改良財産たる土地改良施設(農林水産省令で定める」とあるのは「土地改良施設(農業の有する多面的機能の発揮の促進に関する法律第7条第4項(同法第8条第4項において準用する場合を含む。)の同意に係る」と、「準拠して」とあるのは「準拠するとともに、同法第8条第2項に規定する認定事業計画に記載された同法第7条第3項に規定する当該土地改良施設についての管理に関する事項の内容に即して」と読み替えるものとする。
第13条 国及び関係地方公共団体は、認定農業者団体等に対し、認定事業の確実かつ効果的な実施に関し必要な助言、指導その他の援助を行うよう努めるものとする。
2 前項に定めるもののほか、農林水産大臣、関係行政機関の長、関係地方公共団体及び認定農業者団体等は、認定事業の円滑な実施が促進されるよう、相互に連携を図りながら協力しなければならない。
第14条 特定市町村の長は、この法律の施行に必要な限度において、認定農業者団体等に対し、認定事業の実施状況について報告を求めることができる。
第15条 前条の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者は、30万円以下の罰金に処する。
2 法人(法人でない団体で代表者又は管理人の定めのあるものを含む。以下この項において同じ。)の代表者又は法人若しくは人の代理人、使用人その他の従業者が、その法人又は人の業務に関し、前項の違反行為をしたときは、行為者を罰するほか、その法人又は人に対しても、同項の刑を科する。
3 法人でない団体について前項の規定の適用がある場合には、その代表者又は管理人がその訴訟行為につき法人でない団体を代表するほか、法人を被告人又は被疑者とする場合の刑事訴訟に関する法律の規定を準用する。
1 この法律は、平成27年4月1日から施行する。
2 政府は、この法律の施行後5年を経過した場合において、この法律の施行の状況を勘案し、必要があると認めるときは、この法律の規定について検討を加え、その結果に基づいて必要な措置を講ずるものとする。