水循環基本法
水は生命の源であり、絶えず地球上を循環し、大気、土壌等の他の環境の自然的構成要素と相互に作用しながら、人を含む多様な生態系に多大な恩恵を与え続けてきた。また、水は循環する過程において、人の生活に潤いを与え、産業や文化の発展に重要な役割を果たしてきた。
特に、我が国は、国土の多くが森林で覆われていること等により水循環の恩恵を大いに享受し、長い歴史を経て、豊かな社会と独自の文化を作り上げることができた。
しかるに、近年、都市部への人口の集中、産業構造の変化、地球温暖化に伴う気候変動等の様々な要因が水循環に変化を生じさせ、それに伴い、渇水、洪水、水質汚濁、生態系への影響等様々な問題が顕著となってきている。
このような現状に鑑み、水が人類共通の財産であることを再認識し、水が健全に循環し、そのもたらす恵沢を将来にわたり享受できるよう、健全な水循環を維持し、又は回復するための施策を包括的に推進していくことが不可欠である。
ここに、水循環に関する施策について、その基本理念を明らかにするとともに、これを総合的かつ一体的に推進するため、この法律を制定する。
第1章 総則
第1条 この法律は、水循環に関する施策について、基本理念を定め、国、地方公共団体、事業者及び国民の責務を明らかにし、並びに水循環に関する基本的な計画の策定その他水循環に関する施策の基本となる事項を定めるとともに、水循環政策本部を設置することにより、水循環に関する施策を総合的かつ一体的に推進し、もって健全な水循環を維持し、又は回復させ、我が国の経済社会の健全な発展及び国民生活の安定向上に寄与することを目的とする。
第2条 この法律において「水循環」とは、水が、蒸発、降下、流下又は浸透により、海域等に至る過程で、地表水又は地下水として河川の流域を中心に循環することをいう。
2 この法律において「健全な水循環」とは、人の活動及び環境保全に果たす水の機能が適切に保たれた状態での水循環をいう。
第3条 水については、水循環の過程において、地球上の生命を育み、国民生活及び産業活動に重要な役割を果たしていることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復のための取組が積極的に推進されなければならない。
2 水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水については、その適正な利用が行われるとともに、全ての国民がその恵沢を将来にわたって享受できることが確保されなければならない。
3 水の利用に当たっては、水循環に及ぼす影響が回避され又は最小となり、健全な水循環が維持されるよう配慮されなければならない。
4 水は、水循環の過程において生じた事象がその後の過程においても影響を及ぼすものであることに鑑み、流域に係る水循環について、流域として総合的かつ一体的に管理されなければならない。
5 健全な水循環の維持又は回復が人類共通の課題であることに鑑み、水循環に関する取組の推進は、国際的協調の下に行われなければならない。
第4条 国は、前条の基本理念(以下「基本理念」という。)にのっとり、水循環に関する施策を総合的に策定し、及び実施する責務を有する。
第5条 地方公共団体は、基本理念にのっとり、水循環に関する施策に関し、国及び他の地方公共団体との連携を図りつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、及び実施する責務を有する。
第6条 事業者は、その事業活動に際しては、水を適正に利用し、健全な水循環への配慮に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する水循環に関する施策に協力する責務を有する。
第7条 国民は、水の利用に当たっては、健全な水循環への配慮に努めるとともに、国又は地方公共団体が実施する水循環に関する施策に協力するよう努めなければならない。
第8条 国、地方公共団体、事業者、民間の団体その他の関係者は、基本理念の実現を図るため、相互に連携を図りながら協力するよう努めなければならない。
第9条 水循環に関する施策は、有機的連携の下に総合的に、策定され、及び実施されなければならない。
第10条 国民の間に広く健全な水循環の重要性についての理解と関心を深めるようにするため、水の日を設ける。
2 水の日は、8月1日とする。
3 国及び地方公共団体は、水の日の趣旨にふさわしい事業を実施するように努めなければならない。
第11条 政府は、この法律の目的を達成するため、必要な法制上又は財政上の措置その他の措置を講じなければならない。
第12条 政府は、毎年、国会に、政府が水循環に関して講じた施策に関する報告を提出しなければならない。
第2章 水循環基本計画
第13条 政府は、水循環に関する施策の総合的かつ計画的な推進を図るため、水循環に関する基本的な計画(以下「水循環基本計画」という。)を定めなければならない。
2 水循環基本計画は、次に掲げる事項について定めるものとする。
一 水循環に関する施策についての基本的な方針
二 水循環に関する施策に関し、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策
三 前二号に掲げるもののほか、水循環に関する施策を総合的かつ計画的に推進するために必要な事項
3 内閣総理大臣は、水循環基本計画の案につき閣議の決定を求めなければならない。
4 内閣総理大臣は、前項の規定による閣議の決定があったときは、遅滞なく、水循環基本計画を公表しなければならない。
5 政府は、水循環に関する情勢の変化を勘案し、及び水循環に関する施策の効果に関する評価を踏まえ、おおむね5年ごとに、水循環基本計画の見直しを行い、必要な変更を加えるものとする。
6 第3項及び第4項の規定は、水循環基本計画の変更について準用する。
7 政府は、水循環基本計画について、その実施に要する経費に関し必要な資金の確保を図るため、毎年度、国の財政の許す範囲内で、これを予算に計上する等その円滑な実施に必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
第3章 基本的施策
第14条 国及び地方公共団体は、流域における水の貯留・涵養機能の維持及び向上を図るため、雨水浸透能力又は水源涵養能力を有する森林、河川、農地、都市施設等の整備その他必要な施策を講ずるものとする。
第15条 国及び地方公共団体は、水が国民共有の貴重な財産であり、公共性の高いものであることに鑑み、水の利用の合理化その他水を適正かつ有効に利用するための取組を促進するとともに、水量の増減、水質の悪化等水循環に対する影響を及ぼす水の利用等に対する規制その他の措置を適切に講ずるものとする。
第16条 国及び地方公共団体は、流域の総合的かつ一体的な管理を行うため、必要な体制の整備を図ること等により、連携及び協力の推進に努めるものとする。
2 国及び地方公共団体は、流域の管理に関する施策に地域の住民の意見が反映されるように、必要な措置を講ずるものとする。
第17条 国は、国民が健全な水循環の重要性についての理解と関心を深めるよう、健全な水循環に関し、学校教育及び社会教育における教育の推進、普及啓発等のために必要な措置を講ずるものとする。
第18条 国は、事業者、国民又はこれらの者の組織する民間の団体が自発的に行う、健全な水循環の維持又は回復に関する活動が促進されるように、必要な措置を講ずるものとする。
第19条 国は、水循環に関する施策を適正に策定し、及び実施するため、水循環に関する調査の実施及び調査に必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるものとする。
第20条 国は、健全な水循環の維持又は回復に関する科学技術の振興を図るため、試験研究の体制の整備、研究開発の推進及びその成果の普及、研究者の養成その他の必要な措置を講ずるものとする。
第21条 国は、健全な水循環の維持又は回復が地球環境の保全上重要な課題であることに鑑み、健全な水循環の維持又は回復に関する国際的な連携の確保及び水の適正かつ有効な利用に関する技術協力その他の国際協力の推進に必要な措置を講ずるものとする。
第4章 水循環政策本部
第22条 水循環に関する施策を集中的かつ総合的に推進するため、内閣に、水循環政策本部(以下「本部」という。)を置く。
第23条 本部は、次に掲げる事務をつかさどる。
一 水循環基本計画の案の作成及び実施の推進に関すること。
二 関係行政機関が水循環基本計画に基づいて実施する施策の総合調整に関すること。
三 前二号に掲げるもののほか、水循環に関する施策で重要なものの企画及び立案並びに総合調整に関すること。
第24条 本部は、水循環政策本部長、水循環政策副本部長及び水循環政策本部員をもって組織する。
第25条 本部の長は、水循環政策本部長(以下「本部長」という。)とし、内閣総理大臣をもって充てる。
2 本部長は、本部の事務を総括し、所部の職員を指揮監督する。
第26条 本部に、水循環政策副本部長(以下「副本部長」という。)を置き、内閣官房長官及び水循環政策担当大臣(内閣総理大臣の命を受けて、水循環に関する施策の集中的かつ総合的な推進に関し内閣総理大臣を助けることをその職務とする国務大臣をいう。)をもって充てる。
2 副本部長は、本部長の職務を助ける。
第27条 本部に、水循環政策本部員(以下「本部員」という。)を置く。
2 本部員は、本部長及び副本部長以外の全ての国務大臣をもって充てる。
第28条 本部は、その所掌事務を遂行するため必要があると認めるときは、関係行政機関、地方公共団体、独立行政法人(独立行政法人通則法(平成11年法律第103号)第2条第1項に規定する独立行政法人をいう。)及び地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成15年法律第118号)第2条第1項に規定する地方独立行政法人をいう。)の長並びに特殊法人(法律により直接に設立された法人又は特別の法律により特別の設立行為をもって設立された法人であって、総務省設置法(平成11年法律第91号)第4条第1項第9号の規定の適用を受けるものをいう。)の代表者に対して、資料の提出、意見の表明、説明その他必要な協力を求めることができる。
2 本部は、その所掌事務を遂行するために特に必要があると認めるときは、前項に規定する者以外の者に対しても、必要な協力を依頼することができる。
第29条 本部に関する事務は、内閣官房において処理し、命を受けて内閣官房副長官補が掌理する。
第30条 本部に係る事項については、内閣法(昭和22年法律第5号)にいう主任の大臣は、内閣総理大臣とする。
第31条 この法律に定めるもののほか、本部に関し必要な事項は、政令で定める。
1 この法律は、公布の日から起算して3月を超えない範囲内において政令で定める日から施行する。
2 本部については、この法律の施行後5年を目途として総合的な検討が加えられ、その結果に基づいて必要な措置が講ぜられるものとする。
第1条 この法律は、平成28年4月1日から施行する。